世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しては、非常に早い段階で間葉系幹細胞の有効性が示唆されてきました。その作用機序に関して、多くのグループが間葉系幹細胞の抗炎症作用がサイトカインストームを抑制することで、COVID-19に対しても有効に働くという仮説を提唱していました。

当社では、もちろん抗炎症作用は十分にあることを承知した上で、さらに別のメカニズムも存在するのではないかと考え、研究を行いました。その結果、間葉系幹細胞やそこから分泌される因子には、新型コロナウイルスの受容体として作用する細胞表面に存在するタンパク質であるACE2と、新型コロナウイルス感染の感染効率を上げる細胞表面酵素であるTMPRSS2という2つの感染メディエーターの遺伝子発現量を抑制する作用があることを見出しました。

間葉系幹細胞とその分泌因子がどのようにACE2とTMPRSS2の発現を抑制するかについて更に研究を進めるなかで、FOXO1という転写因子を介して両遺伝子の発現を制御することを突き止めました。FOXO1転写因子の阻害剤であるAS1842856を細胞に処理すると、濃度依存的にACE2とTMPRSS2の発現が抑制され、さらに擬似的なウイルス感染実験でも感染抑制を示唆する結果が得られました。現在は他研究機関と共同研究を行い、さらに検討を重ねています。

このように、間葉系幹細胞やその分泌物がどのようにして疾患に対して作用しているか、そのメカニズムを細かく検討することによって、新しい治療薬候補(創薬シーズ)を発見することを目標にしています。

再生医療が抱える問題の1つに、「治療費が高額になりやすい」という点が挙げられます。私たちは「間葉系幹細胞がどのようにして病気を治すのか」というメカニズムを詳細に調べ、新しい創薬シーズを発見することで、安価で有効な新しい治療薬を発見できると考えています。もちろん、間葉系幹細胞の持つ多彩な機能でしか治療できない病気もあるでしょう。そうした病気に対しては間葉系幹細胞を用いながら、同時に新しい治療薬も見つけていきたいと考えています。